知的学習支援システム
この研究プロジェクトでは,学習支援の様々なアプローチについて考察を行なっている。具体的な研究テーマは
である。
1.タスクオントロジーに基づくオーサリングシステム
タスクオントロジー研究の一環として、本研究では「訓練」を対象としたタスクオントロジーを構成し、それに基づいて知的訓練システムのオーサリングツールを構成することを目的としている。訓練システムに実装するべき基本的な教材として以下の3つのものが考えられる。
訓練システムのオーサには、訓練を目的として、これらの教材を適切に組み上げる作業が求められる。組み上げ作業の典型として、例えば、対象業務に関する知識(B)を業務フローのなかでの学習のコンテクスト(C)に適合させる作業がある。プラント運転の訓練シナリオを例にあげると、対象プラントの機器に関する、仕様、特性、挙動に関する百科事典的な知識(B)を、プラントを運転している最中での、ある特定の局面での学習コンテクスト(Cにより設定される)に有用な形態で訓練員に提示するように、工夫しなければならない。従来型のCBT(Computer Based Training)システムを構築するときには、この作業はオーサの暗黙の専門技能に依っていたというのが実状であるが、仮に、その専門技能を明確にし、訓練システムを作成するための明示的ガイドラインを見いだすことができれば、オーサリングツールの構成について理論的基礎を与えることが可能になる。本研究の目的は、このような考え方のもとで訓練システムのオーサリング作業の支援に必要な様々な概念をオントロジーとして明らかにし、オーサリングツールの構成について基礎的な考察を加えることにある。本研究では、具体的な対象業務としては電力系統の事故復旧業務の訓練を設定している。

現在、我々は訓練タスクオントロジーに基づいたオーサリングツールの設計を進めている。上図はオントロジーベースのオーサリングツールの想定画面を示している。右下のウィンドウで設問の型を選択すると設問作成ウィンドウが画面にあらわれる。設問作成ウィンドウは、設問、選択肢の入力フィールド、選択肢の設定意図を入力するフィールドからなっている。これらのウィンドウに表れているボタン、フィールド、メニューは、タスクオントロジーで定義されている概念に相当している。例えば、右下のウィンドウの各ボタンはタスクオントロジーの設問クラスに対応しており、ボタンを押すことによってインスタンスが生成されるようになっている。また、図には表れていないが、これにつづいて選択肢フィールドの内容をモデルとして表現するために、タスク・ドメインオントロジーの概念によって内容を記述するウィンドウが提示される。このように、オントロジーベースのオーサリングツールでは、人間が認識する概念構造にそったモデル記述の枠組みが提供される。2.2で導入した用語を用いると、オーサリングツールが、「オントロジー」に基づく「モデル」の、人間にとって親和性の高い「表現」を提供しているものとみることができる。
既に述べたように、オーサリングを支援するうえでオントロジーが担う主な役割は、システムの合理的な行動原理を構成するための基準をシステム構築者に与えることにある。このことをオーサリングツールの機能として具体的に記述すると、
といったものが考えられる。これらの機能が、型チェックなどといった計算論的な無機的な意味論のうえではなく、タスク・ドメインに対する人間の認識に対応しやすい知識工学的な意味論の上で提供される点がオントロジーベースのオーサリングシステムの特長となる。
主要論文リスト
知識を人から人へ伝達するための「もの」としてではなく,社会的な相互作用の結果として形成されるものと認識する立場から協調学習の重要性を重視した研究への取り組みが増えてきている.もちろん,この学習形態は目新しいものではなく,古くから教育の現場では実践されてきたものである.個別学習に対するグループ学習の優位性は大きくみて以下の3点について考えることができる.
言うまでもなく教育的にはこれら3つは全て同程度に重要かつ魅力的であるが,本研究では第2の要素に研究対象を限定してグループ学習の知的支援を実現する知識モデルを考えることにする.
知識工学応用の立場からもグループ学習を視野にいれた知的教育支援の枠組み(CSCL:Computer Supported Collaborative Learning)それ自体を革新的研究分野と見る必要はない.むしろITSやILEの個対個の学習形態を支えるモデルからグループ学習を支えるモデルへの自然な拡張と考えるべきである.拡張に際して教育システムに新たに導入されるべき機能は,大きく次の2つに分けることができる.
これらの機能を実現すべく既に様々な研究が進められている.本研究ではBの機能を対象として,以下の3点を技術的課題として取り上げている.
学習目的は,学習グループが学習の結果として達成すべき目的を表し,新しい概念の導入,誤りの修正などがある.システムからみれば学習グループに対するあらゆる働きかけの根拠になる.つまり,どういう局面で,どういう学習を目的として,どのように学習者に働きかけるのか,というシステムの振る舞いの合理性を正当化する基本的な枠組みである.一般に学習に参加するエージェントは,学習エージェント,教授エージェントとしての役割をもっており,それぞれがそれぞれの立場で目的を持っている.ITSで扱われた教授目的は学習に参加するエージェントを,学習エージェント1と教授エージェント1というように制約した場合のコミニュケーション目的に相当していたと言える.この考え方をグループ学習を包括するモデルへと展開することが本研究の目的の一つである.本研究での学習目的の捉え方を端的に表すと「何(ターゲット概念)をどのように(モーダス)学ぶのか」となる.ターゲット概念は学習の目標となる教材概念を表し,モーダスは演繹的な仮説を実験的に検証する思考形態なのか,帰納的な仮説形成・修正によるものなのか,またはLeaning by doing 的な熟練によるべきものなのかといった学習の形態を表す.
学習目的を達成する手段はコミニュケーション形態として,ITSの教授戦略とグループ学習でのコミニュケーションを包括するモデルを設定する.例えば,学習グループが「データを共有しながら,そこから正しい知識を帰納する」という形態や,「法則の妥当性をデータを参照しながら議論する」といったコミニュケーション形態を考えることができる.
こういった様々な形態のグループ内コミュニケーションを背後で支えるシステムを構築するためには,グループ学習のコミュニケーションに関わる幾つかの知識レベルモデルを設定することが重要になる.例えば,知識状態を表すための表現プリミティブとして何が必要か?,その意味は何か?,そして他のプリミティブとの関係は?といったことを深く検討し,知的システムの基盤となるモデル記述体型を確立しようという試みである.本研究の目的はコミニュケーション目的,教材モデル,コミニュケーション形態,学習者モデル,に関するオントロジーを構築し,それに基づいたシステムの実現を目指すことにある。
主要論文
知的教育システムの研究分野においては, システムの高度化にともなって, システムの実現に必要な要素技術の分類と, その統合の方法が重要な問題になりつつある. 教育システムにおいて中心的な役割を担う学習者モデルモジュ−ルの研究を例に考えてみると, 学習者の理解状態を知識モデルとして具体化するという機能要求を満たすモデル推論技法が既に数多く開発されてきている. しかし, 多くの場合, システム全体として学習者モデルを有効に活用する方法が必ずしも明らかにされているとは言えない. また, それぞれのモデル構築技法の能力あるいは性質について議論する土台が明確化されていないために, どのような場合にどのような技法が有効か議論することが難しくなっている.
このような問題は, 知的システムのア−キテクチャを見通す方法論が確立されていないために生じているといえる. システムの構成要素の性質・能力の決定が適切になされているか否かを検討するための基準が存在しないために, システム全体の能力や汎用性が損なわれている可能性がある. このような背景を踏まえて本プロジェクトでは知的教育システムのための汎用フレ−ムワ−クを開発し, いくつかのITSを実現した。
一般に, 汎用の枠組を考える際には, 対象問題を捉える抽象レベルの設定が重要となる. ソフトウェアシステムを例に考えると, 機械語から様々な高級言語に至るまで, 用途に応じた枠組が用意される傾向がみられる. これに対して,現状の知的システムの枠組では対象問題の性質を適切に捉えているとは必ずしも言えない面がある. 特に商用ベースのエキスパートシステム構築ツールには,ルールという知識工学的に低水準な記述レベルを提供しているものが多く見られる. 本研究では, ITSに必要なタスクについて, タスク固有の用語, 知識構造, 制御構造を適切な抽象レベルで抽出し, 汎用フレームワークの構成要素として実現している。
主要論文
知識を円滑に伝達するためには,伝達相手の状況を十分に認識した上でその伝達方法を決定する必要がある。計算機を用いた教育においては,いかに適切に学習者の状態を把握するかということが,システムの能力を左右すると言っても過言ではない.知識伝達の対象である人間とコミュニケートして相手の理解状況を判定し,その情報を教育システムの内部に捉える役割を担っているのが学習者モデルである.
本研究の目的は学習者モデルのための高機能・汎用な推論メカニズムを設計することである。基本的な枠組みは以下のような人間の推論制御構造に基づいている。
人間は推論の流を操作し枝刈りするための様々な仮定を立てながら問題解決を行なっている。そして,その後の過程において推論続行を阻害する要素が現れると,過去に立てた仮定を修正しながら推論の流れを制御すること柔軟でかつ一貫性を保った問題解決を可能とする.
このような問題解決の制御は,
という仮説推論の枠組を適用することで実現することができる.
本研究では,仮説推論の枠組みであるATMSをベースとして学習者モデル推論に柔軟性をもたらす制御を推論プロセスの各時点において立てる仮定の間の矛盾とその解消として捉えてメカニズムを定式化し,汎用性と柔軟性,そして高いモデル構築能力を兼ね備えた学習者モデル構築アーキテクチャを構築した。
主要論文