看護知識の活用支援


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 企業などの組織では,生産性の向上や構成員の教育などを目的として,そこで働く人間が行う行動をマニュアル化し,知識継承を図っていることが多い.医療分野においては治療や検査の手順などの医療従事者の行動に関する知識を文書化した「医療ガイドライン」が学会などにより記述・公開されており, 各病院においても新人教育用に看護手順書などが記述され,知識の共有・継承に用いられている.
 しかし,自然言語の文章やフローチャート形式でのマニュアルで知識継承・共有を行う場合には,語句の解釈に曖昧性が発生する,マニュアルには少数の行動規範や典型的な手順しか書かれていない場合が多い,などの問題がある.マニュアルのユーザが,規範とされている行動の根拠を理解していなかったり,規範行動以外の代替方式を知らない初学者であったりすると,マニュアルの手順を覚えていたとしても,想定外の状況で柔軟な対応が出来なくなったり,無理にマニュアルの手順を実施して意図した目的を達成できなくなったりする問題が起こり得る.また,手順の実施に際して想定される不具合がマニュアルに記述されていなかったり,不具合とユーザの行為との関連性が明示されていなかったりすることが,自然言語文のマニュアルには多いという問題もある.

 

マニュアルが扱う知識を共有するための枠組が備えるべき性質を我々は3つ捉えている.

(1)意味が明確で計算機理解可能な表現形式を持つ

(2)行為の目的やその達成原理を明示化できる

(3)代替方式の比較が容易であり選択理由が明示化されている

上記(1)の性質により手順的知識の捉え方が明確になり,あいまいな解釈を減らすことができる.(2)の性質により,マニュアルに書かれた手順原稿用の目的や意図,根拠が明示化され,想定外の状況に対しても柔軟に対応できるような知識継承が期待される.さらに(3)の性質により代替方式が明示化され,このマニュアルを学んだユーザは状況に適した代替方式の選択が可能となる.また,マニュアル改定の際にも前任者がなぜこの方式を取っていたかという選択理由が分かり,改定の際の知識共有支援が期待できる.これらの性質からユーザが行動根拠を理解し,納得した上で実行できるようになることが期待される.

我々は工学設計の分野において,そのような知識共有を目指し,人工物の機能を記述するための機能的知識共有枠組みを既に提案している.本研究では,機能的知識共有枠組みを拡張することで人間行動モデルの記述枠組みを提案する.本研究では,この枠組みで記述されたモデルを,期待される効果からCHARM(Convincing Human Action Rationalized Model)と呼び,三木市立三木市民病院看護部において実際に使用されている看護手順マニュアルに適用することでモデルの有効性を確認する.さらに,タブレット型端末上で動作するCHARMのビューワを実装して,直感的なタッチ操作により看護手順マニュアルを体系的に学ぶことが出来る仕組みの実現を目指す.

図1:タブレット端末上に実装した
救急救命手順マニュアル対応CHARM

 

本プロジェクトでは,看護師の集合研修,自宅学習,など,様々な場所で好きな時に看護手順を学ぶことを支援するために,図1のようなタブレット端末上に看護手順知識のモデルを実装している.我々の研究室では長年にわたって知識工学,オントロジー工学に関する知見を積み重ねているが,本プロジェクトの完遂のためには看護に関する現場の最新の知識と,看護教育に関する最新の知見不可欠である.看護に関する知識については,兵庫県三木市立三木市民病院看護部所属の看護師の皆様から,定期的に監修を受けている.また,看護知識の教育に関しては,神戸市看護大学の服部兼敏教授に監修・御指導を頂いてプロジェクトを進めている.

 

テキスト ボックス:  

図2:自然言語文の看護手順マニュアルから
救急救命手順CHARMへの変換イメージ図
看護知識の実装の手順であるが,まず,自然言語文で記述されている現状の看護手順マニュアル(2の左上)から,記載されている看護手順(例:カフを膨張させる)と,その行為の目的(例:気管と気管チューブの間の隙間を無くす),同じ目的を達成できる他の方法,注意すべき(あるいは,実施してはいけない)事象などを抽出し,図2のような木構造で記述する.具体的な変換の仕方については,下記の研究発表を参照していただきたい.

その上で,言葉だけでは表現できない具体的な実施方法や実際の動きなどを,画像やビデオの形式でノードにリンクし,必要に応じて閲覧できる形で実装している.実際の端末の動作に興味のある方は,デモビデオをご覧ください.

7月現在,三木市民病院の看護部において,上記タブレット型端末の試用が始まっており,看護師の集合研修などにどのように導入するか,検討を始めて頂いている.年度内に,実際の現場で評価のための第1次試運用を実施する予定である.

 

 

 

 

 

研究発表

西村悟史,來村徳信,笹嶋宗彦,溝口理一郎,意図明示化を指向した汎用的医療関連プロセス知識記述枠組み 2010年人工知能学会全国大会予稿集(CD-ROM)1B3-2, 2010

西村悟史,來村徳信,笹嶋宗彦,ウイリアムソン彰子,木下智香子,服部兼敏,溝口理一郎,行動根拠の納得と実行を促進する人間行動モデルCHARM2011年人工知能学会全国大会予稿集(CD-ROM)3G3-2in, 2011(口頭+デモ発表)

笹嶋宗彦,西村悟史,來村徳信,ウイリアムソン彰子,木下智香子,服部兼敏,溝口理一郎,看護手順学習支援のためのタブレット型ツールの試作,27回ファジィシステムシンポジウム,2011.9.12(口頭+デモ発表)

西村悟史,來村徳信,笹嶋宗彦,ウイリアムソン彰子,木下智香子,服部兼敏,溝口理一郎,看護手順書問題のCHARMingな解決法
31回医療情報学連合大会,2011.11.21-23(口頭+デモ発表)

笹嶋宗彦(大阪大学)西村悟史(大阪大学)來村徳信(大阪大学)ウイリアムソン彰子(三木市立三木市民病院)木下智香子(三木市立三木市民病院)服部兼敏(神戸市看護大学)溝口 理一郎(大阪大学),看護手順知識の習得を支援するタブレット型ツールCHARM Padの試作,第27回セマンティックウェブとオントロジー研究会SIG-SWO-A1201-06(2012.5.9)

Munehiko Sasajima, Satoshi Nishimura, Yoshinobu Kitamura, Akemi Hirao, Kanetoshi Hattori, Shinya Tarumi, Yoshiyuki Takaoka, and Riichiro Mizoguchi, CHARM Pad: Ontology-based Software on Tablet PC for Learning Systematic Knowledge about Nursing, The 9th International Conference with the Global Network of WHO (WHO2012), Kobe, Japan, June 30 - July 1, 2012 (To Appear).

Kanetoshi Hattori, Akemi Hirao, Munehiko Sasajima, Satoshi Nishimura, Yoshinobu Kitamura, Shinya Tarumi, Yoshiyuki Takaoka, and Riichiro Mizoguchi, Explication of Implicit Knowledge in Nursing by Ontology, -Extractionof Functional Vocabulary for Nursing Ontology Development by Text Mining of Nursing Practice Database-, The 9th International Conference with the Global Network of WHO (WHO2012), Kobe, Japan, June 30 - July 1, 2012 (To Appear)

特許

国内出願済み2(公開前).国内出願準備中2件.

 

科研費

平成24年度科学研究費補助金 基盤研究(B)(代表)「病院組織における行動マニュアル構造化とその閲覧システムの開発」
H24
年度-H27年度,4年間総額12,700千円